歯科医院では治療の方向はしばしば「歯の神経を残す方向で考える」という言葉で表されます。前向きに一番良い方法でということです。がしかし、なぜ神経を残した方が良いのでしょうか。痛いなら抜いてしまえばいいのにと思ったことはありませんか?神経がどんな働きをしてくれるのかご紹介します。
神経が自分に教えてくれる
歯の神経を抜いてしまうと、痛みがなくて楽だと思うかもしれません。しかし神経を抜かない方がメリットがとても大きいのです。神経が働いてくれているから今の歯が丈夫で健康に保てています。具体的に挙げていきましょう。
虫歯になった、異常が出たと報告する
小さな虫歯になると、まず歯がしみてきますよね。熱い物や冷たい物がしみるようになり、「あ、虫歯なのかな?」と気付いたりします。これを「神経がお知らせしてくれるから」と捉えれば、安易に抜くことがデメリットとなってきます。
もし抜いてしまえば、痛みを感じないまま虫歯が進んでしまいます。虫歯を作ってしまう人は歯に無頓着なので、穴が開いても気付きにくいのです。気付かなければ歯の中にどんどん進行し、最終段階の時点で痛みが出た時にはもう手遅れというわけです。
歯を虫歯から守っている
神経があることで、歯は生きている状態になっています。神経と血管から栄養をもらって、歯の成分であるタンパク質が硬い状態になっています。歯を作るような作用もあります。しかし神経を抜いてしまえばそれらはなくなります。
虫歯の進行は神経があったときよりはるかに早く、歯自体が固くなることもなくなり、虫歯がどんどん進行してしまうのです。想像するととてもおそろしいですね。
割れたり欠けたりするのを防止してくれる
歯の真ん中には神経が通っている空洞があります。神経を抜いて根っこの処置をする時は、この空洞に薬を詰めているわけです。この空洞が出来てしまう事で、枯れ木のようにぽきんと折れやすくなってしまうのです。
栄養がいかなくなった歯は、タンパク質が変性し始め、どんどん割れやすくなります。子供の頃抜けた歯をずっと取っておくと、触っているうちにパキンと割れてしまうのです。経験がある方は分かるでしょう。
栄養の他に適切な水分も運ばれていますが、神経がなくなるとそれらが一気になくなります。歯の強度が弱くなり、固い物を噛むと一気に割れてしまったりします。
色が健康なまま保たれる
歯の神経を抜くと、歯の色が黄ばんできたり黒っぽくなってきます。これは神経がなくなることによって栄養も水分もなくなり、歯の細胞の新陳代謝がなくなり、歯を構成しているタンパク質が古くなるからです。つまり死んだ歯ということになります。
死んでしまっていますので、いかに長くもたせて使うかということになってきます。治療というより、使えなくなるまでの時間稼ぎのようなものになります。
しなってバランスをとる
歯という道具は、毎日何度も使うことによってすり減ったりしなったりしていることをご存知でしょうか?上の歯と下の歯が正常な歯であれば、お互い具合が良いところでかみ合います。もし当たる所があれば、すり減ったりしてかみ合うようになっていきます。歯はたくさんありますが、そのどれもが違う形なのはこういったわけです。
しかし神経を抜いて死んでしまった歯は、割れないように持たせなくてはいけないため、かぶせ物や詰め物をします。すると金属であれば歯よりも硬いので、すり減りません。かみ合う相手の歯ばかりがすり減って、かみ合わせがだんだん合わなくなってしまいます。
金属でなくても、人工物はやはり天然とは違って、まったく同じではありません。神経を抜かなければかみ合わせの問題がなかったものを、詰め物をしたせいでかみ合わなくなってくる可能性は高いでしょう。
神経の処置は最後
もしどうしても神経を抜かなければいけなくなったのなら、しょうがないのです。しかし現代の歯科医療では、歯や神経は抜かず残すような処置をしています。安易に神経を抜いてしまうと、その後の手入れのほうがはるかに大変なのです。
なるべく抜かない方針で行う歯科医院に行ったり、虫歯のチェックをこまめにしたりするのは、もう戻れない状態にならないようにするためです。歯も神経も抜いたらそこで終わりです。絶対に戻りません。簡単に考えず、しっかり予防をして後悔しないようケアしていきましょう。