ミニマルインターベンションという言葉を知っていますか?この言葉は新しい歯科医療の指標となる言葉です。歯を残し長く使っていくため、政府や歯科医師会等から様々な方針が打ち出されています。その中でも新時代の歯科医療を象徴する言葉となるミニマルインターベンションについてご紹介します。
ミニマルインターベンションとは?
ミニマルインターベンション(Minimal Intervention)とは、「最小の侵襲」という意味です。2000年にジーシーという歯科メーカーがMIコンセプトという形で発信し始め、同じ2000年にFDI(国際歯科連盟)が概念も含めて提唱しました。主にMIと呼ばれています。ではMIとは具体的にどういったものでしょうか。MIは以下の3つの方法でアプローチするよう展開されています。
- 診断(Identify)
- 予防(Prevention)
- 処置と管理(Treatment & Control)
この3つの観点から展開されています。FDIの提唱した内容はこちらです。
歯科医療の概念は、う蝕の進行についての解明及び接着性修復材料の開発によって発展させられてきた。 現在では脱灰されていても窩洞となっていないエナメル質及び象牙質は治癒することが認められており、G.V.Black博士が提唱した、う蝕部位の予防拡大処置の見直しを提言する。
治療の今昔
ひと昔前の歯科医療はこのようなものでした。虫歯で変化してしまった部分や虫歯菌に冒された歯質(白い部分)をエナメル質や象牙質に限らず徹底して取り除き、さらに虫歯が深い場合は神経も取り除きます。とにかく菌に冒されている部分をなくすことで、正常な歯質に感染しないようにしていました。
虫歯は細菌感染なので、冒された部分を排除することで細菌を徹底除去できます。しかしこのような方法では歯を大きく削り取ってしまうことになります。治療といってもなくなってしまった部分が戻ることはありません。その代わりに銀歯等の詰め物をします。
しかし現代の歯科医療は、このミニマルインターベンションの概念によって変化しています。最小の侵襲という意味ですから、大きく削ることがまずなくなってきたのです。必ずではありませんが、それが良いという考え方に変化してきました。最小を意識するようになったのです。なるべく削らなくて良いようにするには、虫歯にならないことが一番です。こうして予防を強化するようになりました。
考えてみればそうですね。虫歯は防げます。削りたくなければ感染しなければ良いのです。虫歯になって痛くなったら歯医者に行くのではなく、ならないようにしようということが定着しつつあります。そして虫歯にならないために歯医者へ行くのです。
MIの展開は広範囲
患者さんが以前の虫歯治療法と大きく違うと感じるのは、予防(Prevention)と処置と管理(Treatment & Control)ではないでしょうか。予防とは上記でも触れましたが、虫歯にならないのが歯を失わない一番の方法ということです。歯に何か治療を加えると、どんどん歯質が減っていくループにハマります。一度も治療することのないよう、子供の頃から予防にいっそう力を入れるようになりました。治療がないのに歯科医院に行くのは違和感があるという人もいるかもしれません。しかし予防のために行っていいのが歯科医院の良いところなのです。
そして処置です。虫歯の治療方法の変化は詰め物などの歯科材料が進歩したことに大きく関わります。白い詰め物で、その場で詰めることができるコンポジットレジンというプラスチックのような材料があります。以前はこの材料は取れやすく、小さく削って詰めても取れてしまうためわざと大きく削る必要がありました。しかし現在のコンポジットレジンは接着力が強くなり、以前よりも小さく削って詰めても取れにくくなったのです。これがまさに「最小の侵襲」を実現させています。
このように歯科医師の力だけでなく、詰め物などの歯科材料を開発する材料メーカーの協力と共に実現することが出来ました。まだ浸透するまでとはいきませんが、ミニマルインターベンションを実践している歯科医師は着実に増えています。
そしてこの予防は歯科以外の分野にも及んでいます。予防の点では患者さんの摂取する栄養に着目し、糖分の過剰摂取を指摘して栄養指導するようになりました。これが虫歯予防という意味でもそうですが、糖尿病や高血圧が歯周病と結びついていると考えられるようになったからです。
歯周病菌が全身疾患と関係することが広まったのは最近のことですが、このおかげで内科でも「歯周病を予防しよう」という動きが始まりました。歯科医院に栄養士が常駐している医院もたくさんあります。歯科も内科も協力して口腔疾患を予防出来るのは素晴らしい変化ですね!歯科に通って虫歯や歯周病を予防するだけでいつの間にか全身健康になっていたら、患者さんも喜んで通えそうです。